最近、ラボの研究員である荒巻君が光を当てると模様が変わる魚を作りました。(論文はこちら)なんじゃそりゃあ?とお感じの方が多いと思われますので、まず、実際にお見せましょう。下の図をご覧ください。
Aはゼブラフィッシュ。普通はこの模様です。で、青い光を当てて飼うと、Bの様に、模様のないゼブラフィッシュが育ちます。その後、光を止めると、Cの様に模様が再生しますが、迷路模様になります。
一度、まともな縞模様ができてからでも、模様を変えることもできます。下をご覧ください。
Aの魚に光を当てるとBに、それを暗所に戻すだけで、Cの様に模様の方向性が失われます。
どうやって作る?
どうしてこんなことになるのか?実は、縞模様の黒い部分を作っているメラノフォアと呼ばれる黒い色素細胞に、遺伝子で、ちょっとした仕掛けをしています。
ゼブラフィッシュの縞模様は、黒い色素細胞(メラノフォア)と黄色い色素細胞(ザンソフォア)のモザイクパターンでできています。2つの色が混じらないのは、黒色細胞が黄色細胞に触れると、細胞膜が興奮して、黄色細胞から離れるように移動するからです。
ですから、この黒色細胞を何か別の方法で興奮させてあげれば、模様を乱すことができるはず。実はそれにうってつけの遺伝子があります。チャネルロドプシンという、植物由来のイオンチャンネルです。
チャネルロドプシンは細胞膜に存在し、青い光が当たると、イオンを透過させて細胞膜を興奮させます。これをゼブラフィッシュの黒色細胞に発現させるとどうなるでしょう?黒色細胞は、黄色細胞のあるなしに関係なく、ランダムな方向に動き出します。
赤く光っているのが、チャネルロドプシンを入れた黒色細胞です。光が当たると、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに散っていくのが解ります。さらに、黒色細胞と黄色細胞は、互いに拮抗する関係にあるため、黒色細胞の配置が変化すると、黄色細胞の位置もそれにつれて変わります。
結果として、青い光を当てたゼブラフィッシュでは、色素細胞の分布がほとんどランダムになり、模様はなくなってしまうのです。
さて、その状態になったゼブラフィッシュを再び暗所に戻します。そうすると、どうなるか?2種類の色素細胞は、再び相互作用により、縞模様を作ろうとします。しかし、一度ランダムな配置になってしまっているので、どちらが水平の方向だかわかりません。そのため、縞の間隔は元と同じですが、方向性のなりストライプ、すなわち迷路模様ができることになるのです。
何のために
まずは、面白いからです。模様の変化に4週間くらいかかるので、手品には使えませんが、それでも、模様が光で変えられるなんて、面白いでしょう。これをトラやシマウマでやった場合を想像しましょう。めちゃめちゃ話題になること間違いなし。まあ、グリーンピースに怒られるでしょうが。
他にも(真面目な)理由があります。皮膚模様ができる原理に関して、です。
縞模様のような等間隔のパターンを作るのは、チューリング波の原理であると考えられていますが(ちょっと難しいですが、こちらに簡単な解説があります)、まだ、すべての人が信じているわけではありません。平行の縞模様は、もっと簡単な濃度勾配モデルでもできるので、そちらにこだわる人もいくらか残っています。しかし、迷路模様は、チューリングでないとできません。この実験で、一度模様を消した後に迷路模様ができたことは、チューリング説の正しさを示しています。
さらに、模様形成の仕組みが、いつまで維持されているか、という疑問にも答えることができます。模様は、通常、動かないので、「若い時に作った模様がそのまま残っている」のか、「年をとっても、模様を作る機能が維持されている」のか、そのままではわかりません。実験では、3か月以上の大人のゼブラフィッシュでも、問題なく、模様が再生することが解りました。模様を作る仕組みは、生きている限り健在です。色素細胞すごいです。
応用は?
さて、これを何に使うか
上でも話したように手品には使えません。模様の変化に1か月かかります。ただ、時間がかかってもよいのであれば、おそらく、すべての脊椎動物に応用可能です。例えば、シマウマだって、色素細胞にチャネルロドプシンを入れて、模様ができる胎児期に光を当てれば、迷路ウマができる可能性は高いです。
それは冗談としても、光で、特定の細胞を遊走させることができれば、いろいろ医療とかにも利用できるかもしれません。是非、皆さんも考えてみてください。詳しくは論文をお読みいただけると幸いです。詳しい資料が必要でしたら、喜んで協力させていただきます。
Comments